子宮動脈塞栓術(Uterine Artery Embolization:UAE)とは子宮筋腫によって生じる症状
(過多月経、月経痛、貧血、腹部腫瘤の自覚など)を開腹せずにカテーテルという細い管を用いて
治療する方法です。入院期間は短くて済み、日常生活にも早く戻れるのが特徴です。
大腿動脈からカテーテルを挿入して、エックス線透視を用い、子宮動脈まで挿入します。
カテーテルは外径がわずか1.3mmです。そこから塞栓物質という細かい粒子を注入します。
塞栓物質は血流にのって子宮筋腫・子宮腺筋症を栄養する動脈を塞ぎます。
左右の子宮動脈にこの操作を行ったらカテーテルを抜いて終了です。
1970年代より外科的に止血困難な産科大量出血に対してUAEが行われ、その有用性、安全性が
確認されていました。1990年代にフランスで子宮筋腫の術中出血を減少させる目的でUAEを行った
ところ子宮筋腫による症状が消失し、手術を行わなくて済むようになりました。その後欧米を中心に
子宮筋腫による症状を消失させることを目的にUAEを行うようになりました。
1997年にはこの方法が日本で行われるようになりました。また最近ではUAEが子宮筋腫だけでなく
子宮腺筋症にも有効であることが判ってきました。
足の付け根にある大腿動脈周囲に局所麻酔を行い、細い管(カテーテル)を挿入します。
カテーテルから造影剤を注入しながら子宮周囲の血管形態を調べ、子宮筋腫を栄養する
子宮動脈まで進めます。そこから筋腫を栄養している動脈を塞栓します。
通常カテーテルが挿入されてからカテーテルを抜くまで30分から1時間程度です。
一連の手技はエックス線透視をしながら血管カテーテル治療をする、
いわゆるIVR(Interventional Radiology)の領域です。
子宮動脈塞栓術が終了するとまもなく、下腹部に痛みが生じます。この痛みは6時間から12時間ほど
続きますが、鎮痛薬を使用することによって痛みを自覚しない程度までコントロールすることができます。また一過性ですが食欲不振、発熱、倦怠感が生じることもあります。
個人差がありますが、過多月経の減少による貧血の改善が期待できます。また月経痛、筋腫による圧迫感、頻尿、便秘の減少も期待できます。子宮筋腫の縮小の程度に関しても同様で、画像でほとんどわからなくなるほど縮小する筋腫もあれば、あまり縮小しない筋腫もあります。
筋腫が完全に塞栓されてしまえば大きくなることはありません。長期効果に関してはUAE後の症状コントロール率は5年で約90%です。つまり10%程度はUAE後5年で再発するということになりますが、再発のない治療法は子宮全摘術のみであり、筋腫核手術と比較しても遜色ないことから、米国産婦人科学会からは子宮全摘の代替療法として安全で効果的と声明が出されています。
UAEが子宮筋腫治療に応用された当初は妊娠・出産に大きな影響は与えないと考えられていました。
ところが症例が蓄積されるにつれ出産時の異常(胎盤位置異常、出産時出血、癒着胎盤など)が多い
という報告がなされるようになりました。このため、2004年には米国産婦人科学会から挙児希望者に対するUAEは相対的禁忌と発表されました。
一方、ヨーロッパからはUAE後の正常妊娠・正常分娩の報告が出されており、2010年9月にFertility and SterilityからUAE後の妊娠・出産が安全であるという報告が出されました。
当院においては挙児希望者のUAEに関しては絶対禁忌とはせず、核出術等、他の治療法の可能性を考慮しつつ適応は慎重にしています。